1冊でカバーするのは、やはり無理ですね。続編を期待します
戦略爆撃というのは当の軍人たちにとっても戦闘のリアリティーに欠けるため、まるでTVゲーム感覚に陥ってしまうと言います。しかも「爆撃によって敵国市民の戦意を打砕く」という積極論者の主張とは裏腹に、第2次大戦の経験では、むしろ被害側の交戦意欲を高める方向に作用したことが知られています。日本の場合ですと、すでに本土空襲以前に米潜水艦隊の海上封鎖によって戦略的に敗北していましたし、さらに当時の陸海軍当局の無策が空襲被害を拡大してしまったこともあります。じっさい、対日爆撃を指揮したルメイ(米)も、対独爆撃のハリス(英)も、戦後、無差別爆撃のあまりの残虐さが明らかになるに連れて、戦勝国民からさえも忌避され、軍当局も高い評価は与えませんでした。それでも、絶対的な制空権を握る米軍は、懲りもせずベトナムで、アフガニスタンで、イラクで同じような爆撃を繰返しています。戦争に勝利した軍人ほど扱い難いものはないと言いますが、さてさて。
おもに米軍の撮影に依拠しているせいか、淡々とした編集で、被害者意識ばかり、むやみと掻きたてる絶叫調が見られないぶん、本土空襲の実態を正確に把握するには、かえって良かったと思います。母が結婚前に被った「沼津空襲」の記録を探していたんですが、本書に写真の掲載がなくて残念。それと、やはり地図ですね。現在のでも、当時のでも結構ですが、適宜、地図を挟んでほしかった。航空写真って、見慣れていても、とくに直上からのは解析が難しいんですよ。また、戦後の市街地再開発や埋立てなんかで地形が大きく変わってしまったところも多いでしょ。本書を片手に戦跡探訪を試みようかと思いましたが、いささか苦しい。
戦後日本の出発点を見つめる
太平洋戦争末期、サイパンやグアム、あるいは中国大陸から飛来した米軍のB-29爆撃機により、日本の主要都市は灰燼に帰し、また広島と長崎には原子爆弾が投下された。この悲惨な体験や記憶は、現行憲法の第9条を生み出す背景ともなり、その後も安全保障政策が議論となる度に、国民のかなり多くの部分が抱いていたであろう「戦争だけはやめておこう」という素朴な感情の基盤となってきたように思う。 こういう悲惨な体験に基づく感情はそれ自体たいへん貴重なものであるし、国際紛争の解決の手段として戦争を選択しないという考えは、基本的に賢明な態度だと思う。しかし、この戦争末期の悲惨な体験、あるいは占領地における数々の犯罪行為に対する反省は、ある意味でトラウマとなってしまい、戦争について合理的に考えること自体を否定する風潮が強かったのではないだろうか。 米軍は、主要都市や基地、軍需工場に対する爆撃成果を後日確認するために、克明な偵察写真を撮っていた。本書は主としてそれらの写真(爆撃中の写真も多い)と、米軍の戦略爆撃についての解説等から構成されている。自然現象として、どうにもならないものとして日本は戦争を始め、また敗れたのではなく、戦争前にも戦中にもそれぞれの陣営でさまざまな考えがあり、あるいは予期せぬ出来事の積み重ねの中で、1945年をむかえたのである。米軍の対日戦略も初めからはっきり決まっていたわけではないことが、本書の解説でもふれられている。 戦争の事実を詳細に知ることは、合理的に戦争や軍事行動を検討する基盤をつくるために必要なことだと思う。その一つとして、比較的入手しやすく、また例えば自分のいま住んでいるところが焼かれたかどうかまではっきり分かるという意味でも身近に感じることのできる、この写真集を推薦したい(ちなみに評者のいま住んでいるところや、父母が当時住んでいたところは焼失区域に入っている)。
草思社
B‐29日本爆撃30回の実録―第2次世界大戦で東京大空襲に携わった米軍パイロットの実戦日記 東京大空襲―B29から見た三月十日の真実 (光人社NF文庫) 決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫) 世界を不幸にするアメリカの戦争経済 イラク戦費3兆ドルの衝撃 日本兵捕虜は何をしゃべったか (文春新書)
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